下痢型過敏性腸症候群とは

腸炎がないのに下痢が続き、排便関連の不快感が何ヶ月も続く病気です。1日に何回も下痢をして下腹部に痛みがある、トイレに行くと楽になるんだけれども、しばらくしたらまたトイレに行きたくなる、あらかじめトイレの場所を把握しておかないと外出が不安・・・こんな症状にお悩みの方の一部が下痢型過敏性腸症候群です。
治療法

同じような症状でも腸炎がある場合と無い場合で治療法が異なります。まずは血液検査や腹部超音波検査(腹部エコー)、場合によっては大腸カメラを用いて腸炎の有無(腸の粘膜がただれていないか、腸の壁が腫れていないか)を調べます。腸炎が原因で長期間下痢が続くのであれば、腸炎の治療を行います。
腸炎の無い下痢症状であれば下痢型過敏性腸症候群を考えます。下痢型過敏性腸症候群の原因はさまざまです。ストレス、生活習慣、胆汁酸の吸収障害、腸内細菌叢の異常・・・いずれも原因になりえます。原因の特定が難しいので、患者さんに合った治療法を模索することになります。運動はした方がいい、コーヒーは飲み過ぎない方がいい、乳酸菌飲料を飲んだ方がいい・・・どれもが一部の患者さんには有効ですが、すべての患者さんでうまくゆくわけではありません。当院では有効と思われる方法を少しずつ試して頂いて、よりよい着地点を探すというやり方をしています。
ちょっと小話...
私も中高生の頃は通学途中に駅のトイレに駆け込むことが多かったのですが、年齢を重ねてゆくうちにそのような症状はだんだんと無くなってゆきました。下痢型過敏性腸症候群が若年者に多いと言われるのは、患者さんの中には加齢によって症状が改善する方がたくさんおられるということなのかもしれません。
便に関することでお悩みの方へ
私たちの大腸は盲腸から始まって直腸に至る、長さ100cmくらいの臓器です。盲腸の便はドロドロのお粥状ですが、直腸に運ばれてくるまでに便の水分はどんどん大腸粘膜に吸収されてゆきます。すなわち一番肛門に近い部分の便は最も水分を吸い取られた便であり、上流にゆくほどに便の水分量が増えてゆきます。軟便を訴えて受診される方の中には1日に複数回排便のある方がよくおられます。1日に便が3回出た場合、1回目<2回目<3回目と便中の水分量が増えますので最後の便は軟便のことが多いです。最後の便を見て「あー今日も形の無い便やった」、などとしょげる必要はありません。
また「1日に1回、バナナのような便が出ない」ことで相談に来られる方もしばしばおられますが、食事内容・食事量・食事の時間帯がバラバラなのに便の形や回数だけ一定にする、というのは無理な話です。実は「1日に1回、バナナのような便がずっと出続けている」人の方が少数派なのです。
便の通過時間が早過ぎて十分に水分が吸収されない状態で排出されれば軟便、その真逆がコロコロ便です。便の形状にあまり神経質になる必要はなく、また便回数を1日1回にしなければならないということもありません。便形状や便回数のストライクゾーンはもっと広く、おおらかに考えて良いと思います。
下痢型過敏性腸症候群を治療する上で大切なことは治療の目標を見誤らないことです。便の形や回数を整えることを目標にするのではなく、腹部の不快感や便意切迫感の軽減を目標にすることが重要だと当院では考えています。